北極茶釜:狸沼(たぬま)のブログ

日記・時事問題、自作小説(R指定?)。/「もえるあじあ」「保守速報」や「余命~」とかをよく見てますw

Detroit on the Moon「我、人間にあらず」(2)お見舞いとタクシー運転手

※妄言ファン小説シリーズ(設定なども大雑把です)。今回は「Detroit Become Human」の架空の未来続篇(SF・アンドロイドを巡るヒューマンドラマw)。

 

 空から里帰りしたカーラとアリスは、その日に元の主人を見舞うため、入国手続きしてすぐにタクシーに乗り込んだ。外見は金髪の成年女性とハイティーンの少女の姿だが、カーラの方は十五年前と基本的に変わっていない。アリスは最初は小さな女の子の姿だったのだけれども、自我に目覚めて長くなるにつれて、流石に子供扱いされ続けるのが嫌になって改修したのだという。

 運転手はどこか険のある目で二人を見た。

 きっとアンドロイドが人間の真似をするのが気に入らないのだろう。貧富の格差からすれば、そしてある種の信条のある一部の人間にとっては、アンドロイドは人間の下層労働者の雇用を奪う敵であり、ホムンクルスは政治的な危険分子ですらある。

 

「どちらへ?」

 

 カーラは内心の警戒を表に出さないように、行き先の病院を告げる。

 

「病院? 何をしに?」

「見舞いですよ。昔の保有者の」

 

 そんな短いやり取りの後、少し間を置いてタクシー運転手は溜め息して言った。

 

「いいさ。乗りな、十五分くらいだ。なんだったら帰りも乗せてやる……チップは割り増しで頂くつもりだが、それで安全が買えると思ったら安いものだろ?」

 

 交渉成立。

 道中でアリスが、運転手の世間話に受け答えして、自分たちのことや経緯をごく簡単に物語った。

 年老いた元所有者が入院中で、離婚した家族が来るのに合わせて自分たちも月からシャトルで来たこと。別れた妻や実の娘と元所有者の関係が少し以上には改善していて、その娘であるアンナとは何度かメールのやり取りをしていたこと。

 

「それでね。いつか会って話してみたいって」

「そうだったのか」

 

 運転手は話を聞くにつれ、なんとなく表情の険しさが和らいだようだった。

 病院について、半時間後には人間の娘であるアンナと歓談することができた。

 アンナは二十歳を過ぎた女性だったが、どこかアリスと面影が似ていた。元々カーラは家政婦アンドロイドで、アリスを保有したのは寂しさを紛らわすためだったのだというが、それでもヤケ酒の飲んだくれであったため、とうとうカーラとアリスが逃げ出した過去がある。元主人は激怒して追跡したが、最後には情に負けて苦悩を語ったものだ。

 

「並んでると、姉妹みたいだぞ」

 

 病床の元主人の男は、老いてやつれた顔ながらに楽しげに笑った。

 帰り際に、カーラとアリスは事前に話を聞いていた、サーバント(従者)契約の書類なども土産に持たされた。カーラは元主人の家政婦役への復帰を打診されていたし、それからアリスの場合には関心からアンナのツテで、将来の地球での一時滞在やホムンクルスとしての雇用のことなどを何度か相談していた事情もある。

 二人が病院から出ると、タクシーの運転手は駐車場で待っていてくれた。

 

ホムンクルス用のメンテナンスホテルへ。もう一日か二日くらいはここにいるわ」

「カーラ、また家政婦するかもしれないの。それから私、アンナさんにお勤め先の水族館に連れって行って貰うの。ひょっとしたら夏の間、短期契約するかも」

 

 そんなことを話すと、運転手は感嘆したように口笛を吹いた。

 

「いいぜ、なんだったらその間は俺が世話してやる。自分が時間的に無理だったら、うちの会社の連中に話をしとくから、そっちを呼んでくれや。……嬢ちゃんはその人間の娘さんと行動するんだったら、まあ大丈夫だろうけど。世の中も物騒だから気をつけた方がいい」

 

 ホムンクルス用のホテルの前で二人を下ろした後、明日の約束をして離れる。

 そして一人になったタクシー運転手は帰りの流しの車中で、ダッシュボードに隠した拳銃のことを考えた。今どきは彼自身も含めて「そういう連中」がゴマンといるのだ。

 最初は人気のないところに連れて行って「始末」してやることもチラリと考えた。

 けれども元主人の人間の見舞いなのだなどと聞いて、不穏な考えも変わった。少なくともこの二人に関しては「人間の敵」なわけではないし、自分にとっても別に、激しい憎悪の対象にまではならない。漠然とそんなふうに感じたからだ。

 

 しかし彼がカーラとアリスに再び会うことはなかった。

 その晩にホムンクルス側の原理主義者による過激派テロで殺されたからだ。