北極茶釜:狸沼(たぬま)のブログ

日記・時事問題、自作小説(R指定?)。/「もえるあじあ」「保守速報」や「余命~」とかをよく見てますw

Detroit on the Moon「2.遺憾のマーカス」(後)

妄言ファン小説シリーズ(設定なども大雑把です)。今回は「Detroit Become Human」の架空の未来続篇(SF・アンドロイドを巡るヒューマンドラマw)。

 

 大柄な黒人型アンドロイドのルーサーは、巨大なサンルームのような農業プラントで、アリスと作物育成の手入れの合間、小型テレビでマーカスの会見を見ていた。

 

「テロリスト。私がこの前に地球に行ったときも、嫌なことがあった」

「話してたな」

 

 ルーサーはアリスの言葉に相槌を打つ。彼女は少し前に、地球に里帰りして、元の保有者や文通相手でもあるその娘と会ってきたのだ。そうしたら乗ったタクシーの運転手が、直後にホムンクルスの過激派から殺されるという事件が発生したのだという。

 

「地球は相変わらずなのかな? だけど、昔よりはずっと良くなってるはずなのにって、マーカスも嘆いてたぜ。あいつなりに責任感じてるんだろうよ」

 

 マーカスは地球のデトロイト市で内戦騒動までやったアンドロイド自由獲得戦争の英雄であるだけに、しばしばホムンクルスの強硬派などからも隠密裏に武装決起や援助などの要請が来る。

 おかげで毎回に説得のために回答をすることになる。

 

 趣旨は「時代状況が異なり、既にホムンクルス生存権・人格権は確保されている」。

 あのときマーカスと「ジェリコ」のチームが武装決起までやったのは、当時はアンドロイドが自我や心を持つことが認識されておらず、ただの「変異体」として処理されそうになったからだ(それは「戦うか、死ぬか」の瀬戸際だった)。だから人格権・生存権を確保した現在の状況は、彼らからすれば大勝利であり、それ以上に暴力的な行動に出る動機は希薄なのだった。

 むしろ人間側と主体的に協力する新しい段階に入っているというのが、マーカスやジェリコ・チームの指揮者たちの認識である。

 だいたいにおいて人間ですら労働はするものなのだし、虐使を受けず対価を得られるならホムンクルス側にも不利益ではないし、通商取引なども忌避する理由はなかった。それに自我や心のないアンドロイドにまで人権・人格権を無差別に求めても、「それではマネキンや機械・自動車はどうなる?」という話にもなる。

 ゆえに適当な線で妥協し、それでも発生する社会問題はその都度に議論や解決していくしかないのだろうが、(特に地球に住む)ホムンクルスの強硬派にはそのことが分かっていない手合いが多い。自分たちが人間の社会で生かされていることがわかっておらず、マーカスやルーサーなどからすると「幼稚で子供じみている」ということになる。

 

 そんな具合なので、ホムンクルス同士での軋轢も増してきている。

 このムーン・デトロイトでも、強硬派(多くは地球からの渡航者)による犯罪やテロがときたま発生するし(犯人はホムンクルスと人間の両方!)、マーカスなどの「弱腰」と見做された指導者が同胞の強硬派から狙撃や襲撃を受けたことも、過去に一度や二度ではないのだった。

 先月にも、マーカスが地球からの暴漢に襲われたことがある。

 そのときは戦闘経験も豊富で喧嘩に強いマーカスが素手で反対にやっつけてしまったのだが。顔にパンチを打ち込んで、頭脳狙いと見せかけたところを、抜き手で胴体のブルーブラッドタンクを引っこ抜いてやったのだとか。

 あとでシャットダウン状態でデータを読み出し、地球の捜査局にも共有して問い合わせたという(信頼できるコナー捜査官の公的調査機関があるのは助けになっている)。地球と連携して、ホムンクルスによる犯罪・テロへの対策強化が為されるのは、それが人格権や生存権の保護を得ることと表裏一体でもあるからなのだろう。

 生きていくのである限り、人間だろうがアンドロイドだろうが、問題は続くものだ。

 

 その四日後、件のテログループが化学兵器を使って住人を皆殺しにし、地球の都市の一つを占領して独立宣言した。掲げた要求は「全てのアンドロイドの解放」だそうだ。

 けれどもアンドロイドは人間の子供が生まれて成長するのと違って、やろうとすれば工場で短時間に大量製造できるのだ。自然発生のホムンクルス(変異体)ではなく、やろうと思えば最初から人為的に自我や心を組み込むこともできるだろう。しかしあえてそんなことをする意味があるかどうかは怪しいし、もしもやれば「無限増殖」で確実に社会バランスが破綻して世界がパンクするのは目に見えているのだった。

 

「俺は核ミサイルでの都市焼却を支持することにしたよ。さっき地球側に連絡した」

 

 うなだれるマーカスに、金髪の恋人ノーラが気遣うように寄り添っていた。

 彼からすればそんな解決法しかないのは「遺憾」だろうし、自分たちの峻厳な締め出し宣言がかえってこの事態を招いた悔しさや情けなさもあるのだろう。彼からすればホムンクルスの同胞を討つのに同意するのは悲愴だし、「歌うことやキスすることを教えてくれた」人間たちを必ずしも憎んでいるわけでもない(元所有者の絵描きの老人は好人物だったが、諸般事情で廃棄・解体の危機にさらされたから逃亡しただけであるし、最終的に慈悲を施してくれた人間側には恩義も感じている)。

 だから彼は悲しげに呟く。人間のようなやるせなさが表情を曇らせていた。

 

「あいつらに、誰かが、歌ったりキスしたりすることを、ちゃんと教えてやったら良かったのに。俺たちアンドロイドはこんなことをやるために自由を手に入れたんじゃない……。なんでもっと『人として』ふるまえないんだ? 人間の一番ダメなところばかり真似して、それでどうなるっていうんだ? 俺が最初にあんなこと(デトロイト自由紛争)をやったせいだっていうのか?」

「そんなことはないわ。うち(月のデトロイト)の子たちは、ちゃんと人間と平和に暮らしてるじゃないの」

 

 ノーラは恋人の坊主頭をなでながら「もしもマーカスに涙腺機能があったら実際に泣いていたかもしれない」と感じる。黙り込んだマーカスの人工物のはずの目はそれほどに苦悩の感情を映し出しているのだった。