北極茶釜/陸戦型たぬきそば

西洋史エッセイ、コントと寓話、時事問題など

奈落のヘル急便 5.似て非なるもの(後)

猫殿は水を飲んで続けて講釈する。

 

「あいつら(ロシアや中国の共産国)の場合は、そもそもが古いアジア的な独裁君主を良しとする文化がある。啓蒙専制君主じゃあないが「賢明な専制支配と神聖なる独裁が最高で正義!」みたいな、古代エジプトビザンツ東ローマ帝国)や、アラビアやトルコの中近世のイスラム帝国みたいな、古い原始的な考え方ニャ。たしかに国や集団で、賢い良心的なリーダーシップがあればそれはそれで凄く良いことだけれど、腐敗や暴走の落とし穴を克服するような新しいアイデアが欠如しているわけ。

あの共産主義の「プロレタリア独裁」とかも、思いっきり「帝政ロシア」の専制体制そのまんまやわ。いくら支配者層が変わっても「賢くて正義のリーダー(たち)が絶対的な独裁支配すれば全て良くなる」みたいな、基本的な部分での単純素朴な考え方は変わっとらん。共産主義社会主義で革命までしても、無意識的な固定観念や伝統文化の先入観が強烈に残っとるんやわ。中国とかでも、近代以降も王朝が変わる易姓革命と腐敗するパターンの延長になっとるやろ? 朝鮮半島も言わずもがなやけどな。

 

でも日本の場合には伝統的に幕府と朝廷で、ヨーロッパの皇帝と教皇の分業体制みたいな政治宗教の精神文化が歴史的に育まれて来とる。日本やヨーロッパと中国や旧アジア大陸では、中世時代に封建体制を経験したかどうかの違いがあることも、よく指摘されとるわ。中国では中央から地方に役人が派遣される慣例で「担当期間が終わったら後のことはどうでもいい」みたいな無責任になるわけやけど、日本やヨーロッパの中世諸侯や大名は代々同じ土地の担当やから後々のことまで真面目に考えるやろ? それに将軍は絶対的な権力があっても、しょせんは最高権威の天皇から任命されただけやから、失敗したりあんまり無責任で横着やったら「解任」されるから、嫌でも朝廷や国に責任感持つしかない。まあ、そんなシステムのおかげで徳川家とかは、時代の変化で解任されても「これまでお疲れ様でした」で将軍や幕府主催者を引退しても命までは取られずにすんだけどな。将軍がそんな具合やから、支配階級の大名や武士も自ずから見習うしかない。それで建前上のトップ支配者の天皇と朝廷は実権がなくって、倫理道徳を教え諭しながら伝統文化を保守するだけやから、めったに大きな失敗はせえへん。

せやから同じ儒教儒学の思想や漢字文化圏でも、日本と中国・韓国では似て非なるものなんやわな。これは支配層だけやなくて、国民全体の無意識な次元での考え方や行動のパターンやから、なかなか変わらへんがな」

 

ヘル急便は言った。

「そういえばイギリスって「君臨すれども統治せず」の国でしたよね。僕は母がイギリスの血筋(レトリバー)なんですけど、イギリスってヨーロッパでも特に独特なんだそうですよね。日本の天皇と将軍・大名の関係に似た、教皇庁と皇帝・諸侯の政教分離だけじゃなかったんですよ。イギリスの政治体制そのものの内部が、最高指導者の王様と支配運営の実務をやる国民代表でさらに内わけで分業されていて、ある意味ではちょうど昔の天皇と幕府みたいな関係だったみたいです。

なんでかって言うと中世の頃に、イギリスの王様は外交の都合でヨーロッパ側の飛び地に常駐していることが多かったそうで、あの第三次十字軍でエジプトのサラディンと和平したリチャード獅子心王とかでもそんな感じだったみたいです。それでイギリスでは国民が自分のことは自分らで決めてやるしかなくって、それが原因で議会政治がいち早く発達したんだそうです」

「まさしく、国には歴史があるってことだニャ」

 

 

(※)余談、基本的には携帯打ちをフリーメール転送してコピペしているのですが、この部分は直接に即興書きしました(笑)。