北極茶釜:狸沼(たぬま)のブログ

日記・時事問題、自作小説(R指定?)。/「もえるあじあ」「保守速報」や「余命~」とかをよく見てますw

カリグラ(三代目の暴君皇帝)の性格分析(古代ローマ帝国の話題​10)

(お知らせ)

まず、お知らせ。ローマ帝国の記事をカテゴリ整理していて気が付いたんですが、番号付けているのが間違っていました(三世代説の考察記事を数に入れていたので番号付けが狂った?)。なお、「歴史と哲学」カテゴリを新設しました。

それで、以下が本題(暴君カリグラについて)になります。

 

      *   *   *

 

で、「だったらカリグラは?」とふと思い、手元にあったスエトニウス「ローマ皇帝伝」の該当部分だけ読み返してみました。ほぼ同時代のタキトゥスの「年代記」(古本屋に売ったが)ではカリグラの巻が欠落して現存していなかったようですが、カリグラはよっぽどローマ人から嫌われていたんでしょう(三年か四年で暗殺されており、しかも写本が残っていないのは「読者から無視されがちだった」のでないかと憶測)。

カリグラはコモドゥスといささか境遇がやや似ているのですが、しかし似て非なるものだと思われます。元老院との関係の良し悪しだけでなく、言動や振る舞いの突飛さも評価に反映しがちなようですが、コモドゥスと比べても賢かったとは考えにくい。
ただ、カリグラにも理由がなかったわけでもないとは思われます。両者共に皇帝になったのが若すぎたのもあるでしょうし、元老院ローマ市民の度を越した腐敗と堕落に内心で怒りを感じていたのかもしれません(それに個人的な復讐心やメランコリーによる錯乱の傾向もあったはず)。
カリグラは父親がゲルマニクス(ゲルマニアを制した者、くらいの意味の尊称)と呼ばれる、文武に優れて、帝国北部(ヨーロッパ)の危機を平定した人物で、(ゲルマニクスは)寛容だったためにパルミラ(などのアジアの国)からも尊敬称賛されていたらしい。しかし父親は戦地で病没し、母親と二人の兄は粛清されてしまい、祖父(?)である皇帝(終身の国家元首)ティベリウスに養育されることになる。そしてカリグラは、都合次第の中傷で家族を死に追いやった元老院議員たち(やティベリウス)を恨み心中激しく憎んでいた。

 



それではカリグラはどういう性格で、何が問題だったのか? 即位後、闘技場で奴隷剣闘士の殺し合いに熱狂するローマ市民たちに侮蔑の態度をとっており、観客の気分次第で殺される剣闘士に同情して哀れんで泣き出したことまであったくらいだから、必ずしも根っからの極悪人だったとは言い切れない部分がある。なにしろ幼少時に防衛の前線で苦労している兵士たちのところにいた時期もあり、祖父の別荘で養育された時期にも常に死の恐怖にさらされていた。
それに生い立ちの不幸からくる複雑さと歪み、若すぎて絶大な権力を持って暴走した面も多々あっただろう。だが(若く純粋であったために)人間の、権力や力関係と都合次第での身勝手な卑劣さや社会の汚なさが耐えられなかったのかもしれない(それがヒステリーじみた支離滅裂な行動の一因ではないのか)。

もう一つ見落としてはいけないのが、カリグラは「アジア的な神権君主」に憧れていた節があること。姉妹との近親相姦も古いエジプト王の伝統風習を真似たとしか思えないし、昔のペルシャ王のギリシャ侵攻のエピソードを真似て海に船の橋まで渡し、実際にローマを捨てて遷都まで画策していたようである。
しかも発言にギリシア古典をしばしば引用していて、それなりに学問や教養があったこと窺われるが(当時のローマの「学問」の主流はギリシャ由来である)、実はギリシャは地理的にアジアに近く、思想などでもしばしばアジア的な面がある。プラトンの「国家」の哲人王のイメージなどもそうだし、後代の東ローマ帝国(中心地はギリシャ)にも「(アジア的な)神聖な独裁専制」の傾向がある。
しかしローマ人は最初期に王制を倒した共和制の伝統政治文化であり、極度に「王制」を憎み嫌う(ゆえに帝政時代になっても建前は「元首」「第一市民」である)。

カリグラの失敗と悪評は、思想や指向的なミスマッチで、ローマ人(の大勢や元老院)とそもそもの相性が悪かったのが理由の一つだろう。彼の発言(「昨晩に勉強してきた成果を見せる」云々)からしても明らかに好学の節があるのだが、それはかえってローマ人の政治指導者としては裏目に出た面があるのでないだろうか?(一般的なローマ人の感覚からすれば「外国かぶれで何を考えているのかわからない、常識がなく浮わついている」ということになる)
だいたい子供の頃に最前線で苦労している親と兵士たちの姿を見ていて(通称のカリグラとは「可愛い兵隊靴ちゃん」という愛称)、さらに元老院軽視の祖父ティベリウスから悪口を聞かされていれば、カリグラが元老院に良い感情を持つわけがない(しかも兄二人が誹謗中傷されて弾圧された)。さらにはストレスで歪んだ精神異常(?)の趣まであるリアル暴君だから(コモドゥスと比べても色々と)、「この無能な腐敗分子どもめ、自分が(アジア的な)神聖王になって全部采配すれば良いだけだ」くらいに思って首都ローマを元老院ごと全廃棄しようとしても無理はあるまいよ。
そしてこのカリグラの思想傾向にはゲルマニクス(父親)やティベリウス(義理の?祖父)からの教育や影響も無視できないだろう(たしかにゲルマニクス個人は有徳で立派な人物で尊敬されてはいても、思想や性格の偏りから警戒されていた一面もあったとしか思われない)。

人間の成功不成功には、偶然の巡り合わせや時宜の必要に叶うかどうかも大きく影響するわけで、単に長所や美点があってもそれが逆に害になることすらあるのだろう。